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      『 冠動脈疾患治療の新しい流れ---薬剤溶出性ステントの登場 』








                                           循環器科 矢持 亘


[ はじめに ]
 冠動脈疾患(狭心症・急性心筋梗塞)の治療方法には、大きく3つに分けて@薬物療法 Aカテーテルを用いた治療法(冠動脈インターベンション) B冠動脈バイパス手術があります。この中で冠動脈インターベンションは患者さんへの侵襲が少なく、冠動脈疾患に対する根本的な治療になることから近年急速に普及してきています。
 1977年にGruentzigが冠動脈インターベンションを世界で初めて患者さんに行った頃には、冠動脈の拡張方法としては風船拡張のみでした。が、わずか25年ほどの間にさまざまな用具が登場し、この分野の日々進歩には目覚しいものがあります。
新しい用具の中には金属のコイルで血管壁を補強する方法(ステント)、動脈硬化の部分を削り取る方法(DCA:Directional Coronary Atherectomy)やダイヤモンドでコーティングされた金属球を高速回転させて破砕する方法(Rotablator)などがあります。このなかでも治療手技の簡便さからステントの使用頻度が年々増加しています。全冠動脈インターベンション症例の7〜8割に使われていると言って過言ではないでしょう。


[ステントとは]
 網目状の金属製チューブで風船カテーテルの上に絞り込まれた状態で乗せられており、冠動脈狭窄部に運ばれ風船を拡張することで開大し血管内腔を確実に保持するデバイスです。
1993年2月に日本でも厚生省により一番初期のステントが認可されており以後、次々に新しいステントが登場し急速に臨床における使用頻度が増加しています。


[冠動脈インターベンションの問題点]
 冠動脈インターベンション治療が始められた当初よりいまだ完全には解決されていない大きな問題の一つが、治療後の再狭窄です。風船治療だけの場合より頻度は幾分少ないのですがステント留置後も約2割程度に生じてきており、慢性期に再度冠動脈インターベンションを必要とする場合があって患者さんには負担となります。


[再狭窄に対する治療戦略---薬剤溶出性ステントの登場]
 この治療後慢性期における再狭窄を抑えるために風船拡張により傷害を受けた血管の局所に薬剤を投与する方法が考え出されました。それが薬剤溶出性ステントです。ステントにポリマーをコーティングし薬物をポリマーから徐々に放出させ再狭窄を抑える方法です。
 初期に行われた臨床試験では再狭窄率0%という驚くべき結果が報告されました。その後行われた欧米のさまざまな臨床研究では、症例数の増加・複雑病変・高リスク患者への応用に伴いさすがに0%ではないですが、いずれもいままでの普通の金属ステントと比較して良好な再狭窄予防効果が証明されています。欧米ではすでに臨床応用されていますが、2年遅れで日本でも2004年3月31日にようやく厚生省の認可がおり(シロリムス溶出型ステント)、2004年8月から日常の臨床にも用いることができるようになりました。
当院でも症例を選んでこのステントの埋め込みを行っています。


[シロリムス溶出型ステントとパクリタキセル溶出型ステント]
 現在さまざまな薬剤溶出性ステントが考え出されていますが、その中でも世界で発売され市場をリードしているものがシロリムス溶出型ステントとパクリタキセル溶出型ステントです。日本で2004年に認可がおりたのは前者です。

@ シロリムス溶出型ステント
シロリムスは約30年前にイースター島の土壌から発見されたマクロライド系の抗生物質で、強力な免疫抑制効果を有している薬剤です。血管壁の細胞の増殖を抑え再狭窄予防に効果を発揮します。

Aパクリタキセル溶出型ステント
パクリタキセルは抗腫瘍剤のひとつで日本でもすでに臨床で用いられています。増殖能の高い細胞の細胞分裂を停止することにより、再狭窄を阻止します。欧米を中心に臨床研究が行われており、いずれも良い結果が得られています。


[薬剤溶出性ステントの問題点]
 今後ステント治療においてはこの薬剤溶出性ステントが主流になっていくと考えられますが、やはりいくつかの問題点があります。ひとつは現時点において日本で使える唯一の薬剤溶出性ステントであるシロリムス溶出型ステントは、通過性に少しですがやや難があり屈曲の著しい血管・末梢病変に対しては用いることが難しい場合があるということです。また、ステント留置後に最低3ヶ月はチクロピジンという抗血小板剤の内服が必須であるということです。チクロピジンは、頻度は少ないのですが白血球減少や肝機能障害など重篤な副作用を生じる場合があります。
このためステント留置後最初の2ヶ月間は2週間に1回の採血検査が必要となります。そして小血管・長い病変・糖尿病などの場合には薬剤溶出性ステントにて再狭窄率は少なくはなりましたが0%にはなっていないという点です。

[おわりに]
 冠動脈インターベンションは始まってまだ四半世紀ですが、さまざまな進歩があり今では冠動脈疾患治療のスタンダードになっています。昔は高齢であるだけで冠動脈インターベンションの禁忌とされていましたが、現在では患者さんの実際の体力・希望を踏まえ適応を判断しています。
われわれも日々精進を重ねて、患者さんに安全で質の高い医療を提供したいと考えています。
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